人材育成のストレスを減らすコミュニケーション~褒めると叱るの使い分け~

部下や後輩の育成での悩み相談のうち、最近特に多いのが

「何度言ってもできるようにならない」

「毎回の指導でこちらがストレスを抱えてしまう」

ということをよく耳にします。

特に昨今はパワハラといったハラスメントにならないよう注意も必要ですし、そうかと思えば逆に

「Z世代はあまやさず厳しく叱ってほしいと思っている」という話も聞きます。

いずれにせよ、どうやって褒めたり叱ったりすればいいのか、基準が曖昧で困惑している方も多いのではないでしょうか。

何度言われてもできないこと・・・あなたにもありませんか

些細な事ですが、私にも何度言われてもなかなかできるようにならなかったことがあります。

それは、自宅のトイレを使ったあとに、便座を下げることです。

私には妻がおり、妻がいつも気にしていたことでした。

もちろんだいたいは意識してきちんと下げていましたし、トイレの前を通る時に時々確認したりもしていました。

しかし、それでもうっかり忘れてしまうことがあるので、そんな時に限って妻にみつかり「何度言えばわかるのか」と小言を言われてしまうのです。

こちらも普段意識して努力しているつもりなだけに、とてもしょんぼりした気持ちになったものです。

このようにプライベートも含めて考えてみると、もともとの習慣と異なる行動様式を身に着ける時に苦労した経験は皆さんにも必ずあるのではないでしょうか。

変化を起こすきっかけは、褒める事

さて、私の事例に戻りますが「便座を下げる習慣」を身につけるために、以下の事を妻にお願いしました。

  • トイレに入った時は毎回便座がさがっているかどうか確認すること
  • 便座が下がっていなくても怒らないこと
  • かわりに便座が下がっていたときに私を褒めること

するとどうでしょう。

2週間後には、すっかりトイレの後に便座を下げ忘れることは無くなりました!

新しい行動様式を身につけるには「報酬」が有効

ある場面で自分がとった行動に対して良い結果が得られると、その行動の発生頻度は増加します。

これを心理学的には「強化」と言います。

逆に、自分の行動に対して悪い結果が伴うと発生頻度は減少します(弱化)。

私の実践は、まさにこの理論を応用したものです。

さて、しかし「褒めて伸ばす」なんてことは、こんな理論を今さら説明されなくてもわかっているよ!

あるいは、「そんな毎回うまくいくわけない」と

思われているかもしれませんので、もう少し解説しましょう。

今回、「ほめて伸ばす」ことが有効だったのは、私にとって便座をおろすという行為が、意識しないと行われない新しい習慣だったからです。

逆に言えば、男性である私にとっては何もしなければ便座は上がった状態になるということがポイントです(だからこそ、無意識に忘れることがあった)。

悪い結果が伴えば、行動の発生頻度が下がる(弱化する)と言うのであれば、「便座を上げたままにすること」を止めて欲しいから「叱る」ことも理屈が通るはずです。

しかし、そうならなかったのは、私が何か行動をしたから便座が上がっているのではなく、新しい行動を獲得できていなかったからです。

なんとなく「褒めて伸ばす方がいい」という一般的な知識と、「そうは言っても叱って成長することもある」という経験の両方があるため、結局どっちがいいのだろう・・・

と、悩んでしまうこともあるかもしれませんが、実はどちらが有効なのかは、ねらいとしている変化が当事者にとって新しい行動様式を身につけることなのかどうかを起点に考えると適切に考える事ができるのです。

新しいスキルを身につけるための人材育成には「褒める」を

さて、今回は私自身の経験を例に「褒める」と「叱る」の使い分けについて紹介してきましたが、なぜ少し恥ずかしい経験談を例にさせていただいたかと言うと、上司部下、先輩後輩のコミュニケーションの中には、今回の例のような「自分にとって当たり前のことと相手にとって自然な状態が異なっている事」がよくあるからです。

例えば、お客様にアポを取る時のマナー、見積書を作成する手順、プレゼンテーション資料の作り方・・・等、

上司や先輩にとっては当たり前になっていて「おかしなことをしないで欲しい」と、部下や後輩に厳しく指摘したくなる場面もあるかもしれませんが、相手にとってまだ不慣れな業務やスキルである場合は、叱るよりも、うまく行った時に褒める事の方が有効かもしれません。

組織の中で効果的なコミュニケーションを定着させるために

適切に褒めて社員を成長させることは、企業にとっての最重要課題といっても過言ではありません。

まずは本日紹介させていただいたような基本的な「褒める」と「叱る」の使い分けを意識して、日々の業務に活かしていただければ幸いです。

なお、そうは言っても実際のビジネスの現場でこうした考え方を共有して浸透させるには、社員一人ひとりの個別性の把握も必要ですし、社長や管理職の努力だけでは難しいところもあるかもしれません。

また、行動を抑制したい場合(例えばマナー違反やコンプライアンス違反を防ぐため)だからと言って、叱咤激励の仕方を間違うとパワハラとなってしまうリスクもあります。

そうした観点から、人材育成やマネジメント評価システムをアウトソースする企業も増えてきています。

自社のリソースや現状に合わせて、少しずつコミュニケーションの風土を変えていけるといいですね。